東京フィル 第965回オーチャード定期演奏会

2022.02.27
Bunkamura オーチャードホール
午後 3時開演(午後 2時15分開場)

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エルガー : 序曲「南国にて(アラッシオ)」Op.50
クセナキス : ピアノ協奏曲「ケクロプス(Keqrops)」≪生誕100年記念・日本初演≫ / 大井浩明[Pf]
ショスタコーヴィチ : 交響曲第1番 ヘ短調 Op.10

東京フィルハーモニー交響楽団

チケット: SS¥15,000 S¥10,000(9,000) A¥8,500(7,650) B¥7,000(6,300) C¥5,500(4,950) ※( )( )…東京フィルフレンズ料金
演奏会お問い合わせ先: 東京フィルチケットサービス03-5353-9522

【道義より】

久しぶりの東フィル定期は複雑な出来事に囲まれていた。

長く続いている感情の生き物=人間が起こした、コロナヴィールスに発した
判らない事への本能的な恐れ、死と病への恐怖からの生活の分断。
そして練習中に始まったプーチンロシアのウクライナ侵攻。
今回のプログラムはそれらのに避けがたい関係を持っていた、
私や東フィル楽員さんのみならず、そんな中、演奏会という一期一会を体験しに来る
積極性を持っているお客さんにも「平和だった今まで」と何か違う音楽との関係が
あったように背中から感じた。
「南国にて」の作曲家は非常に強く英国的な音楽を書いた人で有名な威風堂々は、
結果的に英国の第二の国歌のような役割を負っている。むろんイタリアでの経験に
刺激され一気呵成に書かれたというこの作品、激しい漸進性が演奏にないと、只の
リヒァルト・シュトラウスの亜流と聞こえてしまう。気付いらジジイだった浦島道義、
若いお嬢さんたちが大勢を占めている今の東フィルの弦楽器メンバーのお尻を叩く
のを憚った、、が、マエストロバッティストーニ並みにやりました。この名曲、
あまり演奏しないのは‼難しいからですね!!序曲という名の交響詩。京響でもやった
ばかりでしたが、ホールの性か、結果、相当違う響きが出ました。
京都はいぶし銀。東京は40代の作曲家の息吹吟。
今やオケの重鎮となった須田さんのソロ、味がありました。

シナファイではなく初演を!と大井浩明に言われて飲んだケクロクス、当然ですが
3日目のコンサートは安定した演奏になり、1日目2日目の刃を突き付けられたような
危ない演奏とは一味違うものになりました。でも、ホールが違うのでどこが一番
良かったとかは、言うべきでないと思います。聴く方とすれば好き嫌いもあるで
しょうし、座った席にもよるでしょう。きっとクセナキスオタクならば、大枚
はたいて3回聞くのかな?ともあれ、あのピアノパートを「作曲者の書いた通り
誤魔化さずに全部弾いてやる!でもテンポは書いてある通りでは無理だからね井上
さん!」という彼の視点を今回も尊重しました。良い意味で職人的であり、
マスクを離さない国民性なのかもしれません。〈・・俺には絶対出来ない!!〉
2日目、サントリーホールにはP席にもお客さんが多いので、ソロピアノの蓋を
取りました。ですからそこではコンチェルトというよりシンフォニックな響きに
なっていたと言えます。
しかし3日間のどの演奏でも無謀な、レジスタンス党員の建築家が書いた前衛音楽
という単細胞的な鑑賞態度の人でなければ、意外と演奏側でなく鑑賞している
自分側の心の中から触発され見えてくる景色に驚くことができたと思います。

(その意味で今日はまたもや古い秘蔵映像をこの文の終わりに添付します)

そして19歳のショスタコーヴィッチが書いた交響曲。
今まで何度も指揮してきましたが・・・もうほんとに驚くことに、今回の演奏で
ドミトリーの19歳にやっと僕は同調できた自分を見ています。(75歳なのにね)
そう、指揮をする態度の基本に、死んだその作曲家を自分の中に生き返らせて
初めて初演する時の彼になった演奏をしよう、彼自身に成れる自分を夢想して
やってきました。  ー--でもいくら何でもー--、
たった19歳の男の卒業作品、という常識が邪魔をし、意味不明な二重性のある
音の動き、歌、踊り、構造、話法、が醸し出す複雑な諧謔性に隠れた、上から
目線な態度と卑屈な媚びへつらいの同居、に長年違和感がありました。
でも・・いま、ロシアのプーチン大統領が起こした兄弟国への侵攻、そこに至る
までの独裁的父長的態度を隠さない態度、今も昔もそれを賛成はしなくても
必要とするロシア人たちの大国意識を隠した西欧コンプレックスを目の当たり
にする21世紀の現状の中に、百年前の日露講和条約以来の不安に満ちた
集団的共産主義社会主義に突き進んでいた1920年代のソヴィエトの空気感
を想像できる自分を発見して驚いています。

読んでいるあなたも「そう!」でしょう?

楽員さんが何となく僕に話しかけてくることの多いこの1週間でした。
皆この曲の中に今の自分がいることを感じ、心に刺さるものの多い
プログラムだったようです。お疲れ様!ただの仕事ではなかった。
僕にとっても、恐れず今音楽をする、意味があった東フィルとの1週間だった。

毎回お客様の前で終わりに話してしまいました。
危険なことです。
音楽家は音楽だけで表現すべきで、雑念は避けるべきです。

でも時には発言すべきと疑いません。
ロシアのオケやオペラツアーをツアーをキャンセル、例えばワレリー
ゲルギエフ等を首にする、演目を変えさせるというような行動は間違っている。
フルトベングラーがカラヤンがチャップリンがピカソが、ありとあらゆる
芸術家が居住している国によって迫害を受けたことは繰り返してはいけない。
ゲルギエフはプーチンが真の友人だったならば、彼に戦争を止めるよう説得を
すべきだし、出来なかったなら命を懸けて自分が彼を倒して大統領として立つべきだ。
プーチンよりゲルギエフは政治的能力が高いかもしれない。彼の「ながら能力」
は世界一と思う。語学力も、また多くの国の楽団で培ってきた広い知識も。



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「今はショスタコーヴィチは僕自身だ! 」と語る井上道義2007年に成し遂げた「ショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏会at日比谷公会堂」。 日本人指揮者唯一の偉業となる一大プロジェクトをぜひお聴き下さい。

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第2章は井上道義の特別インタビュー「僕が指揮者になって、今も続けている理由」

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