若村麻由美賛

2026.01.31

【道義より】

【道義より】

富山オーバードホールの陰に出来た600席ほどの中ホールで、「飛び立つ前に」という
フランス発の新作舞台を見に行った。オーバード大ホールでは色々やってきたが,
隣の新しい隠れた場所の「中ホール」は初めてだった。
が・・・自分の耳の老化に絶望した。聞こえないか、響きすぎるか・・・なのだ。
指揮者としては正しい引退時期だったと再確認させられたけど・・・・。
主役、アンドレ=橋爪功さんの50年続いた妻役が若村麻由美さんでした。
2人とも、死んでいるが生きてもいるという設定だし、例え剣幸(つるぎみゆき)
さん、の「女」の強い存在感、濃い脇役の役者さん達にも恵まれてはいるものの、
冒険心溢れたぶっ飛んだ脚本は俺の耳では半分もついていけなかったのだ。

30年以上前、無名塾の仲代達矢との「ソルネス」(イプセン)で見かけた
若村麻由美さんが出演しているのに馳せ参じたのになんてことだ。
若村さんという役者は・・・15年ほど前、「平家物語」の本格的な一人語り
(笠井賢一演出)でその高い役者魂と、高度な舞台女優能力にすっかりやられてから、
追っかけはじめ、後にあの仲代達矢さんを僕がオペラ「青髭公の城」(バルトークの)
への出演依頼のため口説きに行った能登演劇堂で、再会!・・・再度騙され、以来
僕のアイドルとなった。

役者というのは絶対的徹底的に嘘をつける人。だから、普通の女以上に覚悟して
騙されるつもりでないと殺されます!オペラ歌手などもそういう傾向があります。
ううむ・・・まてよ・・俺の母って、役者でも歌手でもなかったのに俺はだまされ
続けた、そうか!女だったのね。

しかしこの作品、指揮者でやっていくには駄目な耳!ぐらいにあなどっていた
が、観劇も無理という状況に入ってきたのがショック。半分は聞こえない。
が、なんと、心底感激させられてしまった不思議・・・。
ここ数年は若い頃のように感激しなかったのに、最後の台詞で涙なんか出ちゃって
驚いた。
ババアだったマドレーヌ若村(主役のジジイの古女房)が終幕、背筋をすくっと伸ばし、
観音像のような手の形(後で尋ねたら彼らの結婚式の約束の手の「型」だったそうだが)
を見せて(老いたアンドレ橋本)との出会いの頃に一瞬にしてワープした演技(これは
尋ねたら演出家のアイディアでなく彼女のものだった)に、今までの自分の経験、自分
の家族との現実などが重ね合され、そうなったのようだ。

「感激」って音楽では得ることが年とともに最近なくなっていた。若い頃も今も
作品そのものではなく、そのような状況を作る作曲家演奏家自身(作品そのものでなく
目前の人)に感激していたような俺だと思うが・・・今回何故感激したのか判然としない。
            でも・・・この1日前・・・・。
隣の県の金沢駅前の県立音楽堂で自分が11年間奮闘努力して(もちろん岩城宏之氏の
後を継いで)目指し、作り上げていた、フレッシュで、躍動感にあふれ、面前の観衆に
語り掛け、踊り、歌う、ようなオーケストラの在り方「舞台芸術の一回性」・・・・が、
跡かたなく失われ、やっているメンバーは意識はないだろうが、どこにでもある、
かしこまった音楽会となり、観客数も3分の1になってしまい、絶望していたから
・・・・有難かった。
人生は音楽だけではないと当り前なことを再確認していたこの1年だったが、そんな日の
次の日出会った得難い、感激観劇経験には救われた。観音様。

幾つかの珠玉のようなセリフも散りばめられていた。
例えば「人生は短い」と老人がうそぶくので(人はよく言うが俺は全く賛成できないと
思っていたら)すぐ後に、「人生は長く色々あるから素晴らしい」というセリフを重ね
る脚本のセンス、時のワープを秀逸な照明と、役者が話す顔の方向などで表し、現実と
夢想の入れ替えをする手法も面白かった。
が、これは音楽で表現する(音楽劇?)とかにしたら分かりやすいと思いながら見ていた。
余計な夢想か?音楽は時間芸術だからポンと時空を飛べるのだ。今回のバッハのチェロ
作品のモティーフ繰返しによってのページをめくるような時間転回は・・・
常套的すぎないかな。

終演後、簡単な打ち上げに入れていただき意気軒高な方達と時を過ごせて有難かった。
「劇の時間」があった成城学園初等科からの親友、劇団民芸の西川明君を通して通った
多くの新劇、また、あの水之江瀧子と終生の友人となるほど僕を生む前から少女歌劇に
通っていた母のお陰で役者たちに気後れすることがなかった。

僕の引退世界は今間違えなく、音楽ナシでも満たされた。若村麻由美さん有難う。

俺のオペラの最後の叫び「迷いから解き放された」と同じセリフが
このF,ゼラー作品の終わりにも使われていた。時代なのか?

           1月31日 越中富山の万金丹飲まされ2月3日に全面改訂

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