親友の死

2026.05.19

【道義より】

70年以上友人だった役者がさっき亡くなった。彼が永眠したという
10分後に知らせがあったが、丁度、僕は目が覚めて青空を見ていた。

僕が知っている彼の母だと思っていた優しい女性が、実は彼の本当の
母ではないと知ったのは、桐朋の大学生の頃だった。

何故か同じ大学の演劇科だった彼に、新宿の場末のバーに誘われ、
僕は飲まないのになあ、と思いながら探し当てたところに、
彼はとっくになじみ客な感じで座っていた。
「このおかしなおばちゃんが俺の本当の母親だよ」とはにかみながら
紹介されたバーの「ママ」は確かにどこか変、何かを引きずっている
うちに曲がってしまったような風貌と雰囲気をさらけ出していた。

そんなことがあってから、お互い結婚をして生活圏も離れたが、
常に連絡は続け、僕は悩み事は彼にしか打ち明けられなかった。
彼は理論派でもあり、地味に人生を毎日を歩んでいて動じるところが
なく、ぼくは感覚派で恐いもの知らずだが本物への憧憬だけは強い。

時は過ぎ、何故か劇団が音楽家を主人公にすると決まってベートーベン
役やリヒアルトシュトラウス役、信時潔役を演じていた。ある時黒川の民芸の
練習場に近くの読売交響楽団との練習の後借りた衣装を返しに寄ったら、
すぐさま僕を役者さん達に紹介してくれて嬉しかった。
その時彼は{巨匠}という題の作品の主役の老人を演じていた。

彼の出演する作品は小学校で「劇の時間」を過ごしたクラスの友達と
よく観劇に行った。
彼を愛する奥さんが本当に素晴らしい人。横浜の魚問屋さん。

子供たちがみな立派に育ち、会うと明るい子ばかりだ。孫もいる。
彼は膵臓がん手術の後一年間病院から出られなかったので思い出話に
良く見舞った。

さっきやっと西川明が解き放たれた。


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