日越外交関係樹立45周年記念 NHK交響楽団 ベトナム公演

2018.09.07
ハノイ・オペラハウス(ベトナム)
午後 8時開演

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チャイコフスキー : 歌劇「エフゲーニ・オネーギン」― ポロネーズ ラロ : スペイン交響曲 ニ短調 作品21* チャイコフスキー : 交響曲 第4番 へ短調 作品36 *クリスティアン・テツラフ[Vn] NHK交響楽団



【時事速報 2018/09/25号:ベトナム定点観測】
◆第228回 NHK交響楽団ハノイ公演 早稲田大学教授 坪井善明

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2018年9月7日、日越外交関係樹立45周年事業の一環として、ハノイのオペラ座でNHK交響楽団の演奏会が開かれた。この演奏会は幾つもの初めてが重なった。まずは、歴史上初めてN響がハノイで公演したことだ。

◇国家主席がオペラ座に
二つ目の初めては、先日急逝したチャン・ダイ・クアン国家主席夫妻が臨席したことだ。ハノイ・オペラ座を本拠地として活動しているベトナム国立交響楽団(VNSO)は、党書記長・国家主席・首相・国会議長等に何回となく招待状を送っているが、ベトナムの政治リーダーの「トップ4」は常に多忙を理由にオペラ座へ足を運ぶことはなかった。45周年記念という事業の意義を梅田邦夫駐越大使が説き、その熱意に国家主席が応えたのだ。少なくとも管見の限り、1976年のベトナム社会主義共和国建国以来、国家主席がクラシック音楽を聴きにハノイ・オペラ座に来たことはない。クアン氏は、その意味でも歴史に名を刻んだ。三つ目は、全日本空輸(ANA)がNHK交響楽団との間で海外公演支援の契約を結んで、最初の公演だったことである(「ベトナム・ツアー」として、9月5日にはホーチミン市でも演奏会が行われた)。ところが、その直前に台風21号が関西を襲い、関西国際空港の連絡橋にタンカーが衝突して搭乗予定のお客さんが空港に行けなくなったり、空港から戻れなくなったりした。さらに滑走路が水浸しになる等の大被害が出て、関西空港は使用不可能になった。また、6日早朝には北海道で地震が起き、厚真町では震度7を観測した。これにより新千歳空港も一時使用不可能になった。これらの相次ぐ事故で、航空便のスケジュールは乱れに乱れた。関西空港にも定期便を就航させているベトナム航空の機材が不足するなど、ベトナム・ツアーの実施にも障害が突然生じた。しかし、杉正純ANAベトナム総代表を筆頭とする関係者全員の獅子奮迅の活躍で、予定通り演奏会を実現することできたのである。

◇圧巻はスペイン交響曲演奏会は、まず両国国歌の演奏で始まった。全員が起立して、ベトナム人はベトナム国歌を、日本人は「君が代」を口ずさんだ。しかし、南部のホーチミン市で9月5日に行われたN響演奏会でベトナム国歌の演奏をした時に、多くのベトナム人は起立しなかったという。北部のコミュニスト(共産主義者)に征服された南部としては、その軍隊風の国歌に敬意を示すような気持ちは持てないという受動的抵抗の証しのような行動だったと思われる。これには指揮者の井上道義氏もビックリしたという。その後、正式なプログラムに従って演奏が行われた。(1)チャイコフスキー:歌劇(エフゲーニ・オネーギン)からポロネーズ(2)ラロ:スペイン交響曲ニ短調作品21(バイオリンのソロは、ドイツ人のクリスティアン・テツラフ)(3)チャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調作品36だった。父親が米国人、母親が日本人の井上氏は、背が高く細身でハンサムだ。大げさなジェスチャーも身に付いていて、自然で嫌みを感じさせない。本当に音楽が好きだというメッセージを全身から発信しているので、聴衆も曲に魅せられてしまう。指揮者として天性のカリスマ性を持っている。
圧巻は、やはりスペイン交響曲だった。作曲家のラロがパリでスペイン人の天才バイオリニストであるパブロ・デ・サラサーテと出会い、サラサーテの魅力を生かすために作曲したと言われているのが、このスペイン交響曲だ。「現代の世界一のバイオリニスト」(本名徹次VNSO首席指揮者の評価)のクリスティアン・テツラフ氏が弾くバイオリンの音は、異次元のものだった。単なるテクニックだけではなく、多分、テツラフ氏のこの交響曲の解釈の深さも影響しているのか、筆者の乏しい鑑賞歴では聴いたことのない名演奏だった。ストラディバリウス製作の何億円もする古典的な名器を使っているのかと考えたが、そんなことはなく、テツラフ氏と同じ1966年生まれの現役のドイツ人バイオリン製作者シュテファン・ペーター・グライナー氏の手になる楽器とのことだった。グライナー氏は、18世紀の古典のバイオリンに挑戦して業界を根本的に変えたとされる人物だ。つまり、古典的な名楽器によってではなく、テツラフ氏と志を同じくする若い世代の楽器製作者との二人三脚が妙な音色を紡ぎ出しているものであることを後で確認して、その技量と共にその不敵なチャレンジ精神を称賛する気持ちが一層高まった。NHK交響楽団は、1926年に新交響楽団という名前で結成されて以来90年以上の伝統のある日本一の交響楽団である。その音は重厚で安定感と正確さがあり、安心して聴けるものだった。1911年に建設されたハノイ・オペラ座のフランス式建造物と雰囲気が一致し、ともに歴史を感じさせて調和していた。

◇「変幻自在」の指揮ぶり
いつもVNSOの演奏を聴いている筆者は、自然とVNSOとN響を比較していた。VNSOの方が女性の演者が多くて、N饗の演者は圧倒的多数が男性だった。その分、華やかさというより、重厚さが印象深かったのかもしれない。その比較の観点で言うと、N響の演者には笑顔が少なかった。とにかくまじめで真剣なのだ。VNSOには笑顔で楽しそうに演奏する人が多いが、そのような人をN響ではほとんど見掛けなかった。やはり、国民性の違いかなとも思った。雰囲気を柔和なものにしたのは、井上道義氏の指揮ぶりだった。曲のリズムやメロディーに合わせて右を向いたり左を向いたり、腰を下げたり伸び上がったり、真剣な顔で演者に指示しているかと思えば、自然で楽しそうに笑いながら曲を楽しんでいる。その姿に観衆の眼は注がれ、心地良い音とともに、最高の演奏会を楽しむことができたのである。最後にアンコール曲として、「ゴジラ」の映画音楽の作曲で有名な伊福部昭氏の楽曲が取り上げられた。伊福部氏は北海道釧路出身の作曲家で、日本の民族音楽を西欧音楽に取り入れた先駆者として知られている。力強いリズムと民謡から想を得たようなメロディーで日本らしさ・北海道らしさを感じさせる楽曲が多い。井上氏は、最近起こった北海道の震災にも言及して、アンコール曲として伊福部昭氏の楽曲を演奏するというアナウンスをした。ベトナム人の聴衆に、「皆さん、ゴジラを知っていますよね。あの映画の音楽を作曲した人が伊福部さんです」と丁寧に英語で説明していた。そして、ソーラン節に出てくるような、船のこぎ姿をイメージさせるジェスチャーを取りながら指揮をした。日本の良さ、日本音楽のローカル性を突き詰め、それを表現して、ベトナムの人たちも含めた聴衆の皆さんとの一体感を醸し出すことに成功していた。「ユニバーサル性(普遍性)に至る道」を、身をもって示してくれたと強く感じた。

【道義より】

暑さは、今年の東京並みだったが、オケの熱さも、裏方の情熱も半端でなかったから乗り切れたハノイ公演だった。 関空の台風被害はベトナム航空にも影響があり、楽器を運ぶ機材がなかった!そこをメインスポンサーANAのスタッフらの奔走でベトナム航空スタッフと何とか乗り切り、国家元首が聴きに来るという、高いハードルも無事乗り切ってくれ、新装(10年前に見に来たときは廃墟のようだった)された、オペラハウスで本名徹次君の友人達による長年にわたる真の国際交流のおかげでもあった。聞くところによると、ホーチミンシティー(サイゴン)とハノイでの2か所の公演というのは、まるでピョンヤンとソウルでコンサートをやるに似たところがあるそうだ。我々には計り知れない問題もあったようだ。奇跡という人もいた。 元気のよい国歌から始まるコンサートは、コンチェルトの途中での拍手もなく、ホーチミンよりクラシックに慣れている事が一目瞭然のお客さんと共に、50年前、30年前、に比べ、耳をつぶって?見ていても気持ちの良い、うねるようなチャイコフスキー音楽のロシアの大地を思わせる演奏がN響は編み出した。 国内ではまだよく有る様な、黒い背広集団による入口での挨拶セレモニーもなく、脱亜入欧ならぬ脱和入亞欧な時間が持てたこの時代に生きている自分が嬉しかった。 コンサートの次の日、地元の指揮者志望の若者(ノダメおじさん?!も)のために僕は講習会を開いた。喉が腫れやすい道義も...頑張ったかな。

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