おお牧場はみどり~~(20日改定)

2026.04.18

【道義より】

4月17一18日としばらく隠遁していた西伊豆から帰ってきて二つの若い指揮者を
聴いて、観た。
17日は新国立劇場でアルバン・ベルグのルルを振った30歳ほどの男、オスカー・
ヨッケル(BRAVO!)。
18日は新日フィルでベートーベンの7番を振った21歳の女、アルマ・ドイチャ―。

オスカーは(避けられない偏見を交えて書くが)久しぶりに「本場」
レーゲンスブルグ生まれ、ウイーン寄りのドイツ人!
作曲もするようだがそれはそれとして、オペラ、ルルを書いた晩年の作曲家の冒険心と、
病的な歪みを、音として充分に届けることに成功したのは、年齢を考えれば相当高い未来が
有ると思える。
     何となくラファエル・クーベリック的な容貌。

このオペラ作品そのものはドイツ語の台本、脚本を歌に落とし込んだ歌手たちの旋律や
音型に寄り添うことは拒否したように続く部分が多すぎないか?ベテラン歌手たちは
しかし相当良い結果を出していた。
特に大沼徹さんの良く通る声と存在感(Drシェーン役)は気持ちが良いほど。
二期会のオペラには長い間、期待を裏切る結果ばかり見せられていたので心底驚いた。
演出のグルーバーさんは良く見ればカロリーヌという名前だから女性だったのに
プログラム写真を観ただけでは全くそう捉えられずびっくり。でもこれって演出の肝
だったかも。どうやら数年前のコロナ騒ぎの頃、距離を空けるというおかしな世間の
空気に負けて上手く行かなかったようだ・・・が、当り前だ。
あのころ、可能性という脅しや、平穏第一で何事も起こって欲しくない空気に
世界中が負けていた。

我田引水だが、言わせてもらう。野田秀樹と俺の「フィガロの結婚」は真夏の練習中
全く距離を取らず、抱きつき合いながら千秋楽まで、一人、埃まみれな環境で大変
だった裏方さんが一人発熱しただけで終わった。
びくびく、何を怖れるのか。死ぬときは死ぬんだ。


アルマ・ドイチャ―(ドイツ人ではない)はイギリス生まれだ。アルマ・マーラーは
なかなか良い作品を残したが、旦那のグスタフには、作曲をやめろとさえ言われていた
時代だったが、21世紀のアルマは、16歳まで学校に行かないで勉強の機会を潤沢に
与えられたせいだろう、何か小生意気な感じがあるが、バイオリンもこなし、ピアノ
では即興も、どんどこやれる能力が有るようだ。
とはいえ「女モーツアルト!」と子供のころから色物的扱いをされながらも
今まで順風の中に来たのだろう、舞台にはそっくり返って大いに颯爽と上を向いて歩き、
フィガロの結婚序曲(この序曲は、結婚の歓びとは何の関係もない、雇い主の
アルマヴィーバ伯爵への若者らしい反抗心の音楽)を明るく、非常に音楽的に振った
のでその後に大いに期待したが・・・・ごめんなさい、後のバイオリンコンチェルト、
ポジティブなことを書けない。
練習は元気元気で、オーケストラとはうまくコミュニケーションが取れる才能が有る
ようだが、、、ソロバイオリンのこれまたさらに若いソリストの学生さん的モーツアルト、
の伴奏では、颯爽と行かず、常にオケが重い現象が抜けなかった。
弦人数が多すぎただけではない。
理由はセンスではなく、やはり本格的に指揮というものを知らず、バトンテクニックの
不備と、指揮者のすべきことを真剣に勉強、または正しく教えられたこともない結果だ。
コンチェルトの伴奏というのは、最近時々見かけるマラソンのガイドランナーが、
タイムラップを冷静に予想、走るカーブなどを事前にガイドするのに似て、走者たる
オーケストラパートの一見単純そうな音型を通したソリストと対話、を発見
し続けなければ!そう、イギリス人ならば女の子でもジョークには事欠かないはずだが、
岩塩村のモーツアルトのそれはちょっと違っているのだ。ユーモアと、喜びと悲しみの
同時進行への誘いだ。手を取り合って前に進む事!・・・欠けていたのはそこだ。
アマデウスも学校に行かなかったが、今日の二人のアプローチだと、無邪気に楽しめた
「トルコ風」の大騒ぎ部分以外は只々眠い曲に成り下がり、表現の狭い駄作とさえ
聞こえてしまう恐ろしさがある。

そして後半、速いテンポの7番・・・これは残念ながら、全く否定的ことしか書けない。
このオーケストラは先日俺と関わった高速道路巡査でも楽しそうに名を上げて「楽しい
のでよく見るんです」という、佐渡裕君や久石譲さんの人気で大いに集客を呼んでいるが、
アルマ・ドイチャ―はそっち方向に更に輪をかけてアニメ音楽風というか、ディズニー
音楽風というか、勢いに無秩序に身を任せたカオス的3楽章はつまらないことこの上ない
(タダシイテンポというものは届ける相手、音を受け取る観客席で聴いてみないと
指揮台でもオーケストラの席でも判断することは出来ない。若いうちは何度でも客席後方
まで行って聞くべき)を聴きながら、ふと・・・・
「21歳かあ、斎藤秀雄先生に桐朋のAオケでガンガン言われながら7番を教えて
もらっていたことを思い出すなあ。そのおかげ23歳でコンクールで優勝した時、
この作品で自信を持って優勝記念コンサートに向かえたんだった!」と・・半世紀以上
タイムスリップしている自分に気が付いた。懐かしくも、その得難い経験の時代に。


そして、この俺と来たら、誰一人としてちゃんと指揮を教えようと心を砕いたことがない。
そんな自分中心人生を恥ずかしく感じていたたまれなくなった。


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